『神都剣侠 全5巻』読了

金庸 【訳】岡崎由美・松田京子 徳間書店(徳間文庫) 443+485+478+470+485ページ 各800円+税
 『射雕英雄伝』の続編にして金庸武侠小説代表作の一作。前作から十数年後、モンゴルの侵攻が激しくなった宋末を舞台に歴史上の人物(フビライ等)を絡めた一組の男女の物語。主人公は父の横死の理由も分からず屈折した少年時代を過ごし、被害妄想と智謀とが相俟ってへそ曲がりな上に直情(熱情か)的に育った(前作の売国奴楊康の息子)楊過。前作の主人公・郭靖が愚直なだけだっただけに変化球を持ってきました。
 《以降、ネタバレ含》
 更にヒロインも、前作は見事なまでのツンデレでしたが、今作はクーデレ(素直クール?)・・・内功の修行のため喜怒哀楽の情を喪失、身内の死、自らの死にすら冷淡な少女・小龍女。特に生まれてから世話をしてくれていた老婆の死すら「人は死ぬものです」と端然としている上、その老婆の今際の際に楊過の事を一生面倒見てくれと頼まれたものの、閉じ込められる事に反発する楊過との会話は秀逸。
(楊)「あんたが死んでから出ていかあ」
(小)「一生世話をすると約束したからには、あなたより先に死にません」
(楊)「俺より年上じゃねえか」
(小)「私が死ぬときには、もちろん先にあなたを殺します」
 そんな小龍女も楊過と生活をする事で天然系へと変わっていく30年がかりな純愛小説・・・と言えなくもない。それ故に不幸になっていくんですが。
 相変わらず、誤解から戦い、解決したら更なる問題、もしくは敵の登場と怒涛の進行に読書の中断は辛くなります。まあ、ワンパターンと言えなくも無いですし、ストレスも溜まるんですがね。中でも前作ヒロイン黄容はともかく、その娘・郭芙の扱いが納得いかん。勘違いで楊過の腕を切り落とすわ、小龍女を殺しかけるわ、しかも間違いを認めず反省しないという我儘勝手な女性となっておりました・・・最後の言い訳で納得できるか! 何の罰も無いですしね。
 この書籍は2000年5月〜9月に徳間書店より刊行されたものの文庫化です(原作は1959年)。本題は『神都侠侶』ですが、日本語訳にあたり改題しております。
(一)「忘れがたみ」:2006年6月15日初刷 ISBN:4198924368
(二)「モンゴルの野望」:2006年7月15日初刷 ISBN:4198924511
(三)「襄陽城の攻防」:2006年8月15日初刷 ISBN:4198924643
(四)「永遠の契り」:2006年9月15日初刷 ISBN:4198924821
(五)「めぐり逢い」:2006年10月15日初刷 ISBN:4198924953