『華氏四五一度』読了

レイ・ブラッドベリ 【訳】宇野利泰 早川書房(ハヤカワ文庫) 288ページ 480円
 先日亡くなられた著者を悼んで再読。
 焚書官として禁じられた本を焼き捨てる仕事を行っていた男が、一人の少女と出会い感化される事で、今までの生活を一変させてしまう話。大衆の思考力を奪うには、その手の書籍を禁じて、ダイジェスト版の書や漫画、安易なテレビ漬けで満足させる事が有効である、と実践された世界が描かれており、まさに現代日本という気がしなくもありませんでした。ちなみに、著者執筆時はテレビが丁度現れ始めたばかりの時期で、テレビに対しての警鐘という意味合いがあったようです。
 現在はテレビの影響力は(妄信する人もまだまだいるが)失われつつあり、思考する場所も本ではなく、ネットへと移行したきらいがありますが、著者が”いま”華氏四五一度を著されていたら、一体どの様な話になっていたのか気になりますな。ショーペンハウエルは、書籍は他人の考え方が記されているものであって考え方を押し付けられるだけ、多読はむしろ思考力を奪わせる、ってな感じの事を記しておりましたけど、ネットはどうなるのか。
 結構以前に読了した為、大衆に知恵をつけさせない様に書籍を燃やす話、程度の記憶しか残っていませんでしたが、改めて読み返すと新たな発見が多々ありました。読了当時と年齢や考え方もですが、時代や風潮も大きく変わった事もあるのでしょうけど、著者が現代を見事に看破している事に驚きます。
 1975年11月30日発行 1992年3月31日発行 ISBN:4150401063